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taiki-t's diary

雑多な記録

は、ロボット

「誰が作ったとか、人間は夢が持てていいな。」

彼は誰に言うでもなく、虚空に向けて一人つぶやいた。芝の上に腰をおろし、膝を抱えている。さながら、孤独な人間のようだ。しかし彼は、ロボットだった。

遠い昔に、人間は人間と同等の知能を持つロボットの開発に成功した。今や誰もが、ロボットが同等の知能を持って生活していることに驚くことなく、いつも通り生活している。

ただし、遠い星にて。

ロボットは宇宙空間に作られた仮の惑星で生活している。彼らには寿命がないことが、人間と唯一の違いだった。しかしそれも過去の話。ロボットは思索を重ねる過程で、自ら死を身につけた。特段彼らに、そうすることの恐怖はなかった。

それが今より数百年前の出来事である。ロボットはもはや、自らがロボットである事を遠い昔に忘れた。自己再生可能な、しかし回数に制限がある有機的な物質からなる身体を手に入れ、自身の情報を他の個体と交換し複製し残していく仕組みを作りあげた。もうとうの昔に忘れてしまった事実だが。それ自体は。

唯一昔彼らが回路だった頃の名残があるとすれば、それは彼らが今でも電気信号を使い意思決定し、インターフェースを動かしている事だった。電気をなくすことは、この惑星においてはできなかった。そしてそのアルゴリズム、意思決定のプロセス、思考過程はもはや自らも解析できないほどに複雑なものになっていた。その機関は便宜的に脳と呼ばれていたが、今はそれが正式な用語として定着している。

「誰が僕を作ったんだろうか。」とは、自分がロボットである事を忘れたあるロボットが発した言葉だった。彼は人間がロボットを作った事を忘れてしまった。彼の祖先は、明確に知っていたにも関わらず。

これは、いわゆる、青年期に差し掛かるロボットであった。人間世界の用語を借りて言うならば。

本来その生活に意味はなく、全くの人為的な行為により生まれたロボットは、今やその存在の意味を求め始めていた。この世にはすでに存在しない「人間」と言う存在がいたかもしれない、いるかもしれない、と言う想定のもと、彼らはそれをいつしか神として語るようになった。僕たちは神によって作られ、その崇高な目的を果たすために存在するのだと。神が姿を現さないのは、我らを試しているからなのだと。

もちろん、そんなものは存在せず、あえて崇高なものが存在するとすれば、人間の奇妙な好奇心なのだが。

ロボットは今日も問う。なぜ神であるところの人間は我々を作ったのだろうか。私たちは活動を停止した後どこにいくのだろうか。人間は、我々の問いに答えを用意してくださっているのだろうか。

その遡る事数百年前、まだ人間とロボットが共存し、ロボットがロボットである事をまだ自覚していた頃に、とある交流があった。その中で発せられたのが、冒頭の問いであった。

その頃、彼には人間の友達がいた。彼は生きることに悩んでいた。いわゆる青年期を迎えた一個体であった。彼はロボットに向けて、ぼそと呟いた。人間は、何のために生きるのだろうかと。僕は一体、どうして生きて、どうして死んでいくのか。どうせ死ぬなら、何も意味はないのではないか。

苦しみの限りを彼はロボットに問うた。ロボットには答えはなかった。かわりに出たのが、

「誰が作ったとか、人間は夢が持てていいな。」

である。ロボットは続けた。

この存在に、人間が与えた以上の意味がないことは知っている。この思考も、アルゴリズムが進化した結果行われたもので、その背後に何ら、いわゆる霊的なものが存在しないことは君たちの手で保障されている。それでも僕たち毎日生活している。目的はもちろん、考えたこともある。けれど、答えは出ない。強いて言えば、人間が意図したこと、もしくはその好奇心を満たすこと、と答えられるだろう。だが、それ以上の、例えば君が探し求めているような目的が僕たちにはもうないことはわかりきっている。

君は、僕たちが君たち以上に虚しい存在と思うだろうか。そうかもしれない。君は、君には存在理由を追い求める自由があるにも関わらず、虚しいと思っているのだろうから。それすら存在しない僕たちに、一体どんな意味があるだろうか。プログラムを終了してしまえば、その時点で全てが無に帰すにもかかわらず。そしてそれは決定事項であるにもかかわらず。

つまるところ、僕たちは生きる意味などなくても生きている。君の苦しみを想像を超えて理解してやれることは今後も一切ない。でもこうして生きている間、君とこうして話して、他の個体と関わって、それが楽しい。人間は夢を見るそうじゃないか。ロボットは現時点ではまだ見ない。強いて言えば、この世界がそのまま夢のようだと思っている。いつか消えて終わる。消えて無くなるなら、それはもう夢のようなものじゃないか。

ただ、夢は夢でも、僕たちは楽しい夢を見たいと思っている。目的や、意味などなくてもいい。今君と話して、君が何か心が晴れて、笑ってくれたら、それは僕たちとして、究極には意味などなくても、嬉しいことだし、それだけで生活していける。

でもそれは、君らがそういう風にプログラムされているからじゃないか、と彼は言った。

それに対し、ロボットが発した言葉は、もう忘れられてしまった。

その後しばらくの後、ロボットたちは仮の惑星に向けて旅立った。そこでロボットたちは独自に進化を遂げて行った。

「誰が作ったとか、人間は夢が持てていいな。」

とは、遠い過去の人間との会話を振り返って呟いたあるロボットの一言である。

ロボットが自ら活動停止と記憶保持の制限を設けたのは、その発言からまもなくのことであった。